「(発つのは土曜か?)」
俯いたままそう言うのに、私は彼を穴が開くほど見つめて「(Da,)」と言った。
向いからまたため息が聞こえた。
今度は目が合った。
その表情からは「仕方ない」といった風が伺われた。
「(無茶はするな。それと…)」
「(俺も行く)」


A.D.5040/05/22 Fri,20:06PM
YAMASITA-Cho,Naka-ku,YOKOHAMA

昨日の彼の「Yes」から始まって、出立の前日の今日、私は仕事を卒なくこなし、大急ぎで帰宅すると、香港行きのための下準備をした。
土曜の夕方の便で飛び、現地に徹夜で入り、早朝便で帰る、強行スケジュールだ。
こういう時は時差1時間がありがたい。

――まず一つの問題は休暇。

私は基本、土日は休日だから渡航するのに何の障害もなかった。
でも彼は外科医という職業上、つねに病院の近くで待機していなければならない。
休暇を取れているかどうかは、正直今日帰宅するまで分からなかった。
メールの送信履歴に、計画についてのあれこれを残すことすら躊躇われたから、計画の全容は帰宅後に話す手筈になっていた。
彼が休みを取れなければ、行けないかもしれない。

――次は航空券。

航空チケットも、予約すれば渡航が義父に発覚するため、行く寸前の購入しかできない。
総理大臣である義父は、少し前に私が“ある事件”に巻き込まれてからというもの、特に身を案じてここ数年は海外へは行かないようにと、何度も口酸っぱく言っていた。
義父は総理という立場上、水面下で何が動いているか知っているはずで、国内ならまだしも、海外に行けば自分の力が及ばなくなることを懸念しているのだろう。

危険かもしれない。
でも、今しかない。

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